賞与に関するニュースの読み方
<賃金の行方 14年春闘> 中小働けど遠い昇給
溶かした鉄を移し替える谷口鋳工の作業現場。業績は
厳しく、賃上げは中小企業まで波及していない
=名古屋市中川区で
円安・株高による好決算を追い風に、大手企業が軒並み冬の賞与を増やす一方、多くの中小企業が賞与を減らしたり、昇給見送りを続けている。大手労組が久しぶりに「ベア復活を」と気勢を上げる今春闘。業績回復が遅れる中小にまでその熱気は伝わっていない。
古くからの町工場が立ち並ぶ名古屋市中川区。鋳物メーカー、谷口鋳工では、従業員がくず鉄を一五〇〇度の高温で溶かして鋳型に流し込み、自動車などの生産設備に使う鋳造品をつくる。リーマン・ショック後の円高で仕事は激減。円安に転じると昨年六月ごろから海外から仕事が国内に戻り、現在の生産量は前年比四割近く増えて工場は活気を取り戻しつつある。
谷口晋介社長は「向かい風から追い風に変わったが、まだ賃上げはできない」と話す。苦しい経営が続き、従業員三十四人の雇用を守る代わりに、最近五年のうち四年は定期昇給を凍結せざるを得なかった。足元では円安の副作用で、鉄や電気代のコストが12%アップ。「円安で仕事は戻ったが、コストも上がり簡単に利益は出ない」(谷口社長)とため息をつく。
愛知県で豆腐を製造するある中小企業は、昨年の賞与を前年の年間三カ月分から二カ月分に減らした。昇給も千~二千円程度だ。円安で輸入する大豆や燃料、包装資材が値上がりし、収益を圧迫。社長は「従業員は不満だと思うが、これしか出せない」と話す。
七年前は五カ月分の賞与を出せた。その後、大手スーパーの値下げ要請で納入価格はどんどん下がり、豆腐一丁の売れ筋の値段は三十八円と、当時の半値に。「赤字経営で、自分の年金を会社の支払いに回している状況」と厳しい経営の内情を明かす。
北見式賃金研究所(名古屋市)が、愛知県内の中小企業九十五社を対象に所定内給与の推移を集計したところ、役職に就いていない三十五歳の男性は二〇一三年に二十六万五千円で、リーマン前の〇七年の同世代より一万三千円減った。五十歳では、家族手当のカットなどで減額幅は三万七千円に達した。
同研究所の北見昌朗所長は「中小企業の昇給の相場は、リーマン前は年間五千円だったが、今はやれるところでも三千円。昇給を取りやめる例も多い。中小企業は輸出しないところが大半で、円安になっても為替差益は得られず、逆に原材料費の高騰による負担の方が重くなってしまう」と分析する。
日本では全労働者の約七割が中小企業で働く。いくら大手が賃上げで先行しても、中小にまで波及しなければ、経済効果は限定的だ。
(白石亘)
2014年2月1日 中日新聞朝刊